未来の価値

第 18 話


「ええええ!?ルルーシュが、皇族!?って、ええええ!?」
「ルルが皇族、ルルが・・・皇子様・・・」

ルルーシュの出自を聞いたリヴァルは目を白黒させるほど驚き、シャーリーは混乱したのかルルが・・ルルが・・と口にしていた。

「ええ!?じゃあ、ナナリーちゃんも皇族ってわけ!?」

兄妹ってことは、そう言う事でしょ!?

「そういうことよ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下とナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女殿下。それがお二人の本当のお名前よ」

ミレイは二人の反応に特に驚くことなくそう説明した。
ええええええ!?
シャーリーとリヴァルは再び驚きの声をあげてナナリーと、眠るルルーシュを見た。
本来皇族と言うのは雲の上の存在だ。
そんな人物が、一般市民にまぎれていたのだ。驚くなと言うのは無理だろう。
確かに二人共育ちの良さがにじみ出ており、特にナナリーは言葉づかいも非常に丁寧だ。礼儀作法も完璧で、立ち振る舞いにも品があり、普段から皇子様、お姫様のようだとは言われていたが、まさか本当にそうだなんて。

「ですが、それは昔の話です。私もお兄様もその名は7年前に捨てました」

ナナリーの言葉に、シャーリーとリヴァルは口を閉ざした。
7年前。
それはこの国がブリタニアに敗戦し、属国となった年。

「私とお兄様は留学と言う名目でこの日本に送られました。まだ日本と戦争をする前の話です」
「名目でって・・・」

リヴァルはどういう事?と言うような表情で尋ねてきた。
ナナリーは眉を寄せ、言い辛そうだったのでスザクが代わりに口を開いた。

「表向きは留学だったんだけどね、実際は人質だったんだ」

人質。
その言葉にリヴァルとシャーリーはごくりと固唾をのんだ。
人質とは、日本への、と言う事だ。
だがブリタニアは日本に宣戦布告した。
人質を送ったのに、戦争を始めた?
意味が解らないと、リヴァルとシャーリーは困惑した。
真剣な表情のスザク、悲痛な表情のナナリーとミレイ。
いつも奇想天外なイベントを企画するミレイだが、こんな気分の悪い話を用意するとは思えない。何より、あの妹馬鹿のルルーシュがナナリーを残し学園を去り、ようやく連絡が付いて再会したと思ったら顔色悪く疲労しきっていて、これだけ騒いでも眠りから覚めない状態なのだ。
これはミレイのドッキリ企画では無く本当の事なのだと、ざわりと背筋が震えた。

「送られた先が僕の家なんだ。僕と二人は幼馴染なんだよ」

その言葉で、ミレイはようやく納得した。
あの警戒心の強いルルーシュがここへ連れてきた理由と、ナナリーがスザクを知っていた理由。日本人の幼馴染の話しは時々耳にしていたが、二人は決してその名前を出す事はなかった。
戦後アッシュフォードが迎えの車を出した時、日本人の少年が一緒だったと聞いていた。つまり、その時まで一緒にいたスザクは知っているのだ、ルルーシュとナナリーの素性と、鬼籍に入った理由も全て。
皇族に戻ったことで、スザクと再会を果たしたのだろう。
そして、信頼できるからこそルルーシュは連れてきたのだ。

「皇族である二人、しかもそのうち一人は障害を抱えたナナリーだ。二人がいるのに戦争が始まるなんて、僕たちは思っていなかった。でも、実際には戦争は始まった」

僕たち。
そう言いながらスザクなルルーシュとナナリーを見た。当時の事を思い出したのか、ナナリーは縋るように、眠り続けるルルーシュの手をぎゅっと握りしめていた。

「・・・ちょ、まった!ルルーシュとナナリーちゃんがいるのに、戦争したのかよ!?」

信じられないとリヴァルは叫んだ。
いや、今までの話からはそれ以外答えはないのだが、いくら相手を油断させるためとはいえ、実子をまるで人柱のように使い捨てるとは思いたくなかったのだ。

「そうよ。お二人を国に戻すことなく、開戦したの」

ミレイはすっと目を細め、硬い口調でそう答えた。
リヴァルとシャーリーは意味が解らないと、困惑した表情を浮かべるしかなかった。

「マリアンヌ后妃の事は、知ってるわよね?」

庶民での皇妃、元ナイトオブラウンズ。
皇帝の皇妃の中では最も有名な人物だ。
そして、暗殺されたことも、ブリタニア人であれば誰もが知っている。

「お二人はマリアンヌ様の御子なの。当時貴族だったアッシュフォード家は、マリアンヌ様の後見人として、お二人が皇宮におられた頃から交流があったのよ。だから、ルルーシュ様があの戦争で死を偽装するとおっしゃられた時、私たちはそれに従ったの。たとえ爵位を失ったとしても、お二人が皇族である事を捨てられたとしても、私たちにとっての主君はヴィ家のお二人だから」

お二人の命を優先させることにした。
たとえ戸籍を偽造したとしても、この国から外へ出る事は危険すぎた。
指紋などから生存がばれる恐れがあるからだ。
だから、アッシュフォードは戦後すぐに日本に来た。
この国から出る事の出来ない二人を守るために。
それがこの学園が設立された理由。
まさか、悪友とその妹のためにこのアッシュフォード学園が建設されたなど想像もしていなかったリヴァルは、うわぁ・・・と、言った後、眠るルルーシュをみた。

「俺、そんなこと知らなかったからさ、賭けチェスとか、カジノとか連れ歩いてたんですけど・・・」

元とはいえ、皇族を賭けごとに誘っていたのだ。
俺、やばい事してたんじゃ?と、リヴァルは眉尻を下げ、ミレイは苦笑した。

「私は気が気じゃなかったわよ。貴族相手に賭けチェスなんて。ルルーシュ様はマリアンヌ様に似ておられるから、気付く人がいたかもしれないもの」

でも、ルルーシュがそれを望んだから、止める事も出来なかった。
警戒心の強いルルーシュだから、そんなへまはしないと思っていたのもある。

「・・・でも、とうとう知られてしまったのよね。シンジュク事変のあの日、ルルーシュ様はクロヴィス殿下の親衛隊に見つかってしまったの」

その言葉で、リヴァルは顔をゆがめた。
あの賭けチェスの帰り、事故を起こしたトラックへ駆け寄ったルルーシュとはぐれてしまった。つまりあの後、ルルーシュは親衛隊に見つかり、皇室に戻されたのだ。
母親が暗殺され、心にも体にも深い傷を負った子供を人質に出し、相手の油断を誘ってから戦争を始めるような皇室にだ。
自分を責めているのだろう、顔を歪めたリヴァルに、ミレイは優しく言った。

「リヴァル、貴方のせいではないわ。だから自分を責めないで。・・・大事なのはここから先なのよ」

ミレイはふう、と息を吐くと、既に冷めてしまった紅茶を一口含んだ。

「ナナリー様、万が一の時にはとルルーシュ様に授けられていた策があります。そしてその策を今回使うと、ルルーシュ様はおっしゃっていました」
「・・・なんでしょうか」

不穏な空気を感じたナナリーは、ルルーシュの手をぎゅっと握った。

「今回、生存が確認されたのは幸いルルーシュ様だけです。ナナリー様の生存はまだ知られていません。・・・つまり、ナナリー・ヴィ・ブリタニアはあの戦争で死んだ。これはまだ変っていないという事です。ナナリー様、今後貴女はあの戦争でルルーシュ様が拾われた戦災孤児、ナナリー様のお名前を付けられ、妹姫を亡くされたルルーシュ様のお心を癒すためにお傍にいる、ナナリー様に似た他人・・・いえ、アッシュフォードが用意した、ナナリー様そっくりに顔を整形した使用人となっていただきます」

ミレイは辛そうな表情で、今日ルルーシュが告げるはずだったであろう言葉を、ナナリーに告げた。

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